エノキグサ

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真夏の炎天下、港の岸壁近くの荒れ地に赤い花穂の目立つ草が群生していた。

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9月にもなるとたくさんの舟形の葉の中に小さな荷物を載せているとでもいった面白い形になる。これが同じ草だとは思えないほど様子が違う。

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エノキグサは畑や林の脇など、日向だけでなく半日陰くらいのところでもよく見かける。各葉腋から数個の花序を出しながらどんどん伸びて膝くらいの高さにもなる。

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花序は先端に雄花が穂状に付いて、その下では雌花が総苞に半ば包まれている。総苞の中に雌花は数個、その組み合わせが1花序に2個付いていることが多い。また茎も総苞も白い毛で覆われている。これではアリや毛虫は取っつきにくそうだ。

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雄花はごく小さく径1mmもない。赤い粒々の蕾が4裂して開くと雄しべの束が出てきて白い花粉を噴出する。この花には萼だけで花弁はない。雄しべの数はよくわからないが、資料によると8個あるそうだ。花被の下には短めの花柄がある。すべてが半透明で可憐で幻想的でもある。

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さて雌花の方は、編み笠をひっくり返したような感じの苞葉の中に1~4個入っている。子房は3室でそれぞれが丸く膨らんで面白い形になる。その真ん中から薄赤い毛のような花柱が出かかっている。

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こちらでは雌花は2個、花柱は細く半透明な糸の束になっているがこれは柱頭と言った方がよさそうだ。どうも子房から出てすぐ3裂し、またすぐ糸状に裂けて柱頭が開くようだ。よく見ると近くに上の花穂から落ちてきた小さな雄花が一つ転がっている。

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この花には虫を呼び寄せるような仕掛け何もない。かといってふつうの風媒花のように大量の花粉を出してはいない。一説には、雄花は総苞の中に転げ落ち、そのとき雌花の柱頭に触れて直接花粉を渡すのだとある。確かに総苞の中に雄花の残骸がたくさん溜まっている。しかしそうやって受粉するなら、柱頭が接触しやすいように横に広がっているとか、根元の方に横向きに付いているとかしなければ非効率だと思う。なによりそれではすべて自家受粉になってしまう。

改めて見直すと、雄花は花穂にたくさん付いて、その花穂も数多く、そして真っすぐ上に伸びている。こうしたことは花粉を風に飛ばそうとしているのではないだろうか。つまりエノキグサは風媒花かもしれない。そして雌花の舟形の総苞は雄花を受け止めるためでなく、気流を乱し渦を作り真ん中に花粉を吹き溜まらせるための仕掛けではないか。それは花粉が少なめなことへの対処かもしれない。よく見ると総苞の表面には花粉と思われる白い微細な粉がたくさん付いているのだった。

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果実はいつまで経っても緑色のままなので試しにそれを割ってみた。種子はすっかり黒くなって成熟しているようだ。その上に透明でみずみずしいゼリー状のものが載っている。これは種枕で、アリに種子を運んでもらうためのエサだ。

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10月になってやっと果実が熟した。自然に割れて果皮が三つにばらばらになり、3室それぞれから1個ずつ種子が出ている。風でも吹けば地面に零れ落ちて、あとはアリに運んでもらえばよいだけだ。ただあんなにおいしそうだった種枕はもう干からびてしまって、果たしてアリは運ぶ気になるのだろうか。

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たまに雄花の穂の先にたくさん毛が生えていることがある。これは雌花が異常なところに付いてしまった奇形で、穂は早々に枯れ落ちるので結実することはありそうもない。

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エノキグサの名は葉がエノキに似ているからだそうだ。しかし葉というのは変異が多く、まあ似ているかと思うものもあるが、だいぶ違うよと言いたくなるときの方が多いようだ。それより昔の人にとってはエノキは身近で馴染みの木で、その下の雑草の中にエノキの実生とよく似たものがあったということなのかもしれない。エノキはアサ科(旧分類ではニレ科)なのに対しエノキグサはトウダイグサ科で、系統的にもかけ離れている。

トウダイグサ科は非常に特殊化した杯状花序が特徴だが、エノキグサの花はかなり一般的な分かりやすい形で似ても似つかない。どうも杯状花序に進化する前の原始的な姿であるようだ。ただ子房が3心皮3心室、そして柱頭が3裂するのは共通している。これは単子葉植物に共通する特徴だが、双子葉植物ではトウダイグサ科くらいであまりない。

トウダイグサ科は熱帯亜熱帯で繁栄していて日本での在来種は多くない。エノキグサ属も園芸用では赤い花序のきれいなキャッツテールとかベニヒモノキなどが流通しているが、在来種としてはほぼこのエノキグサ一種のみだ。しかしこの草は日本全土に分布し、海岸から丘陵地まで、畑や道ばた、コンクリートの隙間にまで繁茂し、最もありふれた雑草の一つになっている。

(学名:Acalypha australis)

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